進む「スタジアム・アリーナ改革」と、球場とチームの一体経営を進める難しさ
2004年から19年間本拠地として使用していた札幌ドームに別れを告げ、2023年から本拠地を北広島市にあるエスコンフィールドに移した北海道日本ハムファイターズ。
その移転騒動の裏側には野球に限らない、日本スポーツ界共通の問題がいくつも存在していました 。
当連載記事は、3回に分けて移転問題の背景から日本スポーツ界の未来まで幅広く考えるコラム記事です。
(全3回の#3)
#1 【自前?借り物?】プロ野球12球団別球場運営の違いとは
https://prospo.jp/column_detail/?id=85
#2 【謎】日本ハムファイターズの本拠地移転はなぜ起こったのか。
https://prospo.jp/column_detail/?id=86
前回記事では、2023年にオープンした日本ハムの新球場、エスコンフィールドについて詳しく解説しました。
第一回も含め、ここまでの結論は一言でいえば「チームとスタジアムの一体経営が何よりも大切」ということです。
一体化を達成することで、クラブはフランチャイズ、ホームタウンとの接点を強め、親会社に頼らず主体的に収入を得ていくことが出来るため、今後のスポーツ界の発展のためには欠かせない動きです。
野球界ではヤクルトを除く11球団が球場運営に関与することが出来るため上記目標はほぼ達成されているといえるでしょう。また、日ハムの例を見ると、他スポーツも、「スタジアムがないなら自前スタジアムを作ればいいのでは??」と考える方も多いでしょう。
しかし、そう簡単にはいかないのです。
当記事ではプロ野球の枠を超え、日本のプロスポーツ全般に目を向けてみたいと思います。
興行発展には欠かせない「お客さんが入って儲かる」仕組み
皆さんの中ではお金をかけてスタジアムの自前化を進める必要性について疑問視する方もいらっしゃるでしょう。そこでまずはスポーツクラブは通常、どのようにして収益を上げているか確認してみましょう。
スポーツクラブの収益構造
スポーツクラブの収入源は主に以下の4つに分けられます。- 広告料収入
- 入場料収入
- グッズ収入
- その他収入(放映権収入、行政からの支援金など)
浦和レッズが発表しているクラブ収支状況によると、全体の営業収入の約5割(2022年度の場合)を広告料収入が占めています。(参考:浦和レッズ公式HP)
広告料収入に頼る危険性
しかし、スポーツチームを支援する企業も慈善企業ではありません。自分たちがお金を出すことで広告になるチーム、いわば「魅力的」なチームである必要があるのです。今現在スポンサーである企業が10年後も同様にスポンサーをしてくれているとは限りません。加えてスポンサー企業スポーツのの思惑によって運営方針が決められてしまうのはデメリットといえるでしょう。
また、新興スポーツリーグではスポンサー探しにも苦労するでしょう。
ネット中継が一般化し、スポーツの楽しみ方も人それぞれです。
現に観客動員ナンバーワンの浦和レッズですらコロナ前の2019年でリーグ戦平均観客動員数は34184人で観客動員率は53.6%に留まります(もちろん埼玉スタジアムが大きいというのもありますが・・・)ので、まだまだ改善の余地はあるといえます。
ネット配信も盛んな今、より多くのお金を払って球場に来てもらうために必要なのは、現地でしか味わえない「ライブ感」ではないでしょうか。
アーティストのライブをイメージしてみてください。
スポーツ観戦も同様で、後でハイライトを見るだけでは味わえない臨場感が観戦に行く最大の動機なはずです。
クラブがアリーナの活用、運営を主体的に行うことで、「観戦体験の向上→入場者の増加→クラブの経営面での成長」というサイクルを生み出すことは、今後日本でプロスポーツがより発展するためには欠かせないといえるのではないでしょうか。
球場とクラブの一体経営がそう簡単に進まないわけ
クラブによるスタジアムの自前化が進まない理由、それは端的にいえば「お金」が無いという理由に尽きます。そもそも、日本に存在するスポーツクラブのうちファイターズのように数百億のお金を新球場設立に投資できるクラブはいくつあるでしょうか。
また野球は年間で143試合行われるため、ホームでの主催試合はどの球団も70試合前後あることになります。
年間365日あるうち、わずか20試合に満たない本拠地開催デーのみで新球場にかかるコストをペイするのはあまりにも現実的ではありません。本拠地で試合が行われていない340日でどのように収入を確保するかが課題になるでしょう。
ここまでをまとめるとプロスポーツ業界の課題は主に二つといえます。
- クラブが管理する新スタジアム・アリーナを作りたくてもお金がなくて作れない、金銭的問題
- わずか20試合程度しか行われないホームゲーム開催日以外でどのように収益を上げるか
進むスタジアム・アリーナ改革
第一回記事で扱ったように、クラブとスタジアムの関係には、「自前型」「賃貸型」のほかに、「公設民営型」がありました。スタジアム建設・管理の負担を行政と民間で相互負担するこの仕組みは、クラブが自前で管理できるスタジアムを作りたくても金銭的に余裕がない現状において有効だといえるでしょう。
また、行政でもスポーツ庁と経済産業省が、スタジアムを公園やレストランなどの複合施設の実現や幅広い世代が集うスポットになることを目標に「スタジアム・アリーナ改革」を打ち出しました。
ここからはJリーグとBリーグで一例ずつ画期的な取り組みを行うスタジアム・アリーナの例を紹介します。
①パナソニックスタジアム吹田(Jリーグ)
吹田スタジアム(引用元:ガンバ大阪公式HP)2015年にガンバ大阪の本拠地として吹田市に作られたパナソニックスタジアム吹田はまずその建設までの過程が特殊です。
なんといっても特徴はヨーロッパのスタジアムに近い、圧倒的な「見やすさ」です。

グルメも充実しています。

たこ家道頓堀くくる(引用元:ガンバ大阪HP)
試合が行われない日にはサッカースクールやコンサートにも利用でき、スタジアム周辺には公園やショッピングセンターなどが整備されており、ホームタウンとの接点としての役割も果たしています。
②沖縄アリーナ(Bリーグ)
沖縄アリーナ(引用元:琉球ゴールデンキングス)
皆さんはアリーナと体育館の違いをご存じでしょうか。ただ体育館を英語にしたのがアリーナだと思っていませんか?体育館とはスポーツを”する”ための場所なのに対して、アリーナとはスポーツ問わず各興行を”観る”ための場所です。つまり主語がプレイヤーにあるか観客にあるかという点で大きく異なります。
沖縄アリーナは、そのようなアメリカ型エンターテイメントアリーナの日本での先駆けとして2021年3月に誕生。バスケットボールクラブの琉球ゴールデンキングスが指定管理者として運営・管理を行うことになりました。
沖縄アリーナは県内最大の1万人を収容できるほか、施設内には510インチの大型ビジョンや60台のカメラで360度の全方向からの視点映像が見られる「4DREPLAY」など最先端設備が取り入れられています。
施設の設計からゴールデンキングスと沖縄市が二人三脚で行ったこともあり、沖縄アリーナの誕生はバスケの観戦体験向上に大きく貢献することになります。平均来場者数は開場前年度の20-21シーズンの2245人から5166人に、チケット収入は3億円から2倍以上の7.8億円に増加し、6.5億円のスポンサー収入を上回る快進撃を見せます。
試合開催日以外の収益確保の課題については、沖縄アリーナは通常体育館で行われるバレー・バスケのほかに、格闘技イベントの開催からアーティストのライブまで幅広く活用することが出来ます。

沖縄アリーナで行われた格闘技イベント「RIZIN36」のメインイベントで勝利した平本蓮の勝利者マイク(引用元:RIZIN FF)
特にライブに関してはオーソドックスな縦長のセンターステージスタイルと臨場感あふれる空間を生み出せるサイドステージスタイルなど複数のレイアウトが作り出せる仕組みになっているなどイベントに合わせて柔軟に対応可能になっているのが特徴です。

センターステージスタイル(引用元:沖縄アリーナ公式サイト)

サイドステージスタイル(引用元:沖縄アリーナ公式サイト)
スタジアム・アリーナ改革の現状・課題
ここまで行政民間共同で進められているスタジアム・アリーナ改革のメリット・成功例のみに触れてきましたが、最後にいくつか課題を紹介します。①資金調達の難しさ
上では成功例をいくつかあげましたが、やはり顧客に価値提供を十分に行うことのできるスタジアム・アリーナの建設には莫大なコストがかかります。官民連携スタイルを上では推奨しましたが、その施設(チーム)を誘致することでそのようなメリットがあるのか、一貫性のあるビジョンを提示できないと構想段階で頓挫してしまいます。現状、官民連携で建設されたスタジアム・アリーナも稼働率がどのくらいで、年間の収支がどうなっているかなどは不透明なケースが多く、官民ともにスタジアム投資のインセンティブをはっきり示せていないケースも散見されます。
例えば、岡山市が掲げる新アリーナ構想では、県もアリーナ建設により利益を享受するとして財政面での協力を呼びかけていますが、県知事は「経済効果の十分な説明が足りていない」として消極的な姿勢を見せるなど協議が難航しています。
②建設をめぐる様々な法律・税金問題
スタジアム・アリーナ構想を実現できる大規模な建設には法律・税金面でいくつもの制約が存在します。ここでは主に二つ紹介します。また、スタジアム・アリーナ改革において欠かせない商業施設などの複合施設の建設はより難易度が高いです。現法では1万平方メートル以上の商業施設には建設規制がかかり、単体で収益化可能な施設の建設は現状難しい状況です。
実際には取るべき税金を免除するわけですから、スタジアム建設による具体的なメリット、公益性の高さをチーム側は説明・証明しなくてはなりません。
スタジアムの公園使用料免除に「ノー」、地方創生の起爆剤に波紋(日経クロステック)
スタジアム建設では騒音・渋滞問題が発生するリスクがあるため、近隣住民の理解を得ることも大切だといえるでしょう。
まとめ
ここまで、3回にわたってチームとスタジアムの一体化について、エスコンフィールドを代表例として解説してきました。政府を中心にスタジアム・アリーナ構想は押し進められていますが、現状課題は山積みといえる状態です。街づくりに根差した、地域住民に受け入れられるスタジアム・チームになるためには、短期的な収益という観点にとどまらずに長期的な視野を持って計画・運営を進めていくことが何より重要であるように思います。
参考記事
【スタジアム紹介】見やすさ抜群!パナソニックスタジアム吹田沖縄アリーナにみるスポーツ観戦イノベーション
スタジアムに投資すれば、日本のスポーツ界は変わる
改革が求められるJリーグ、根幹となる「クラブとスタジアムの経営一体化」
【スポーツ未来開拓会議】スタジアム・アリーナを起点とした持続可能な地域・社会づくり
え、スタジアムって公益性ないの?